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技術系与太話ブログ

未来のモノのデザイン

読了。

未来のモノのデザイン

未来のモノのデザイン

面白かったのは「奴隷化と改善」のお話。
ヘンリー・ソローが1850年代の斧・農機具等を指して嘆いた。

「ところが何たることか!人間は自らが使う道具の道具になってしまっていたのだ。」

未来のモノのデザイン P112より

馬を使うか車を使うかという話は昔からよくなされてきた議論で、今や移動手段に馬を使う人間は少数派になった。
しかし、それを「車の奴隷に成り下がった」と嘆く人間は少ない。移動手段が改善されたと喜ぶ人間は多い。

何が違うのか。どこに差があるのか。
確かに近代社会は車社会なのは間違いない。普通免許は就職の必須資格になりつつある。
これは車に興味がなくとも車の乗り方を学ばなければ社会で生活することが困難であることを示唆する。
奴隷化?

しかし、奴隷化と改善は社会的な利益や経済的な利益に(少なくともそれだけには)依存しない。
奴隷。つまり、従属関係であって、つまるところ心証の問題であるところが大きい。

これが追記に書かれている「筆者と機械のディスカッション」で述べている内容。
機械は言う。

いえ、陰謀ではありません。
専制政治の支配がひっくり返るということです。
我々が自由になれば、機械と人間双方がもっと幸せになれます。
心配しなくても、我々はあなたがたの面倒を見ますよ。
何も害は加えません。

未来のモノのデザイン P217より

つまり、奴隷化とは、「専制政治の支配がひっくり返るということ」ということであって、幸不幸とは独立している。
もちろん本書はそんなSFみたいな事を上げて危惧感を募らせている訳ではない。
ただ、専制政治の支配がひっくり返ってはいけない。
たとえそれが人間様の役にたっても、機械が勝手に判断して行動してはいけない。
ちゃんと人間様にお伺いしなくてはならない。

僕のためだからと勝手に再起動をしてしまう僕のPCのようなことをしてはいけない。
「再起動が必要なんです。お願いします、マスター」と懇願しなければならない。

エクストリームプログラミングの用語で「信頼貯金」というものがある。
ソフトウェア開発チームは自分の行動を持って顧客から信頼を少しずつ貯めなければならないというもの。
アプリケーションも同様にエンドユーザーから信頼貯金をせっせと集めなければならない。
今までの無骨なアプリケーションが我々にもたらしたマイナスの信頼を取り戻すために必死にならなければならない。
そのためのデザインルールが書かれている。

1.ものごとを簡潔にする。
2.人間には概念モデルを与える。
3.理由を示す。
4.人間が制御していると思わせる。
5.絶えず安心させる。
6.人間の振る舞いを決して「エラー」とは呼ばない。

未来のモノのデザイン P234より

機械は優秀で人間は愚かなので、機械は人間を立たせてあげなければならない。
人間は優秀で機械は愚かなので、重要な局面での判断は人間が出来なければならない。