REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方
読了。
- 作者: ローレンス・レッシグ,山形浩生
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2010/02/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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しかし経済書かと思うレベルで経済経済した内容でした。
色々と過激な主張がある中、日本で一番人が食いつく主張は
ファイル共有を合法化しよう
REMIX p259より
だと思う。(現に訳者の山形氏が同書内で食いついてる)
そして僕はこれに同意する。
もちろん海賊行為支持というわけじゃなく。
FREEで著者のクリス・アンダーソンは「経済的万有引力」という単語を用いてファイル共有の防止が現実的じゃないことを述べている。
- 作者: クリス・アンダーソン,小林弘人,高橋則明
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2009/11/21
- メディア: ハードカバー
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レッシグ自身も海賊行為は嫌っているし、その旨は何度も本書で述べている。
それと同時に、レッシグもまた、ファイル共有防止の経済コストがファイル共有そのものの経済損失を上回っていることを指摘している。
この時にレッシグが言う経済コストや経済損失は数字上の売上推移だけではない。
むしろ2次派生創作の禁止に伴うコンテンツクリエイターの萎縮やファンクラブコミュニティの活動の禁止に伴う消費市場の縮小に重きを置いている。
つまり、このままRIAA(アメリカレコード協会)やJASRAC(日本音楽著作権協会)が弁護士を引き連れ、
手当たり次第に(最近はそうでもないらいしい)攻撃するテロリズムへの懐疑だ。
このシステムを真に喜んでいるのは仕事が増えた弁護士だ、と。
そして、ここまでは訳者も同意している。
その上で、合法化というのはやり過ぎではないのかという見解。
山形氏はP2Pがプロバイダ規制をかけることが出来る点、
広告付き無料音楽ダウンロードサービス(権利者へは広告費から利用に応じた権利使用料が払われる)
がスウェーデンで違法ダウンロードの6割を減らした点を元に、合法化以外での解決策を模索すべきだと主張している。
さらに興味深いのが、山形氏は10章で現れた海賊高校生についてこのように述べている。
だがこの高校生は、法律とは別の次元で自分がやっていることがいけないことを明らかに知っている。
ギターの個人教授(中略)が家にくるときには、先生にファイル交換がばれないように小細工をするだけの後ろめたさは持っている。
それはファイル共有がいけないという法律やRIAAの訴訟のために生じた後ろめたさなのか?
そうは思えない。
レッシグの提案が通ってファイル共有がいけないという法律が合法になり、アーティストにある程度お金がいくようになったら、
この高校生は先生の前で堂々とファイル交換をするようになるだろうか?
ならないのではないか、とぼくは思う。
かれを卑しいこそ泥にしているのは、たぶん法律ではない。
(中略)ファイル共有を方法にしても、それで社会は変わらないし、このこそ泥高校生の後ろめたさも消えることはないだろう、とぼくは思う。REMIX p290より
そして、レッシグはファイル共有を合法化すると述べた際に、具体案を2つ提示している。
1つは著作物にタグを付け、何回ファイル共有されたかを監査し、必要回数分著作者に税金で使用料を支払う方法。
もう1つは包括ライセンス手続きを作り、利用者が低料金で自由にファイル共有する権利を買えるようにする方法。
レッシグ自身はいずれかでもいいので早急に採用すべきと述べていた。
後者は様々なサービスが取り入れている経済モデルで、
ニコニコ静画は最近漫画3万冊の電子書籍対応と一部の無料配信(1話無料など)によりかなり部分的だがそれに近い形をとっている。
(定額制という部分で根本的に異なるが、niconicoは定額制のプレミアムユーザー機能があるので、
プレミアムユーザーは一部コンテンツを無料で読み放題といった事も可能だし、いずれそうなるのではとも思う)
しかし僕は断然前者の税金方式を推したい。
そもそも山形氏が指摘するようにレッシグが「高校生を犯罪者にしたくない」ためだけでファイル共有を合法化しているわけではないだろう。
その要因は(少なくともREMIXで述べられている分には)経済的な理由が主だし、文化を守る事も(経済要因の1つとして)その1つだ。
ならば海賊高校生は罪の意識を感じるべきで、後ろめたさを消すだなんてとんでも無い。
経済的万有引力と言うと聞こえはいいが、結局のところ政府やRIAA、JASRACは著作権戦争に負けた。
どう楽観的に見積もっても、「このまま著作権を強めればいずれファイル共有は無くなる」と考えるには無理がある。
しかし、レッシグも言うように(そしてFREEのクリス・アンダーソンも言うように)海賊行為は悪なのだ。
被害者は勿論権利保持者(著作権保持者ではなくそのままの意味での著作者)であり、その支払に税金を投入することは不自然だとは思えない。
税金を投入すれば税金が上がり、収入が下がる。ますますCDが買えなくなり、ファイル共有。そしてそのせいでまた税金が上がる。
だからこそ泥高校生は後ろめたく思うべきだし、囚人のジレンマは解決の糸口を見つける。(税金は全国民の負担だからだ)
もちろんこれが最良だとは思えない。
ただ、安易にサービス化してしまう方が不健康だと思う。
レッシグは本書で再三に渡り、ファイル共有がもたらす(著作権侵害がもたらす)若者への文化的影響を危惧している。
こそ泥高校生は今のところ罪の意識を持って、でも、まぁ、それでもやっぱりこそ泥を続けている。
これがサービス化すればどうなるだろう。
もちろんサービス化するとこそ泥ではなくなる。
しかし、無料でコンテンツを得る事が常識だと考えるかもしれない。サービス化はそれを助長する。
法律は正しく(少なくとも国民が合意するもので)あらなければならない。
重要なのは意思決定の結果でなく過程にある。
人は法律が適切でないと思うと驚くほどあっさりそれを破る。(いろんな歴史がそれを証明してる)
「悪いやつがいるけどどうも多すぎて捕まえられない。しょうがないから損害賠償は税金から使うことにする。
いいね、もし君が卑しいこそ泥ならこんなことはすぐに辞めるんだ。でないとどんどん税金は増えていく。わかるね?」
不透明な現在の著作権システムよりかは幾分単純で合意できるのではないか。
最後に、レッシグは「若者を犯罪者にしない」ようにすべきだと述べている。
真の失敗は、このすさまじい規制が子供たちの基本的な正直さに与えた影響なのだ。
子供たちは「海賊」だ。
われわれはかれらにそう告げる。
かれらはそれを信じるようになる。
あらゆる人間はそうだが、受ける凶弾にあわせて自分の考え方を変える。
「海賊」としての生活が気に入ってしまう。
この種の考え方が他にもにじみ出す。
(中略)子供たちはますます、ある単純な質問に答えるべく自分たちの振る舞いを調整するようになる。
どうやって法から逃れようか、という質問だ。REMIX p271より
裁判に負けたから犯罪者ではない。
レイプが増えたからレイプを合法にしようという話でもない。
法律は守られるためにあるのではなく、社会の益のために存在している。